原田マハ「デトロイト美術館の奇跡」アートとの向き合い方を教えてくれる小説です
油絵の思い出
中学生の時、部活動とは別にクラブ活動という時間がありました。
確か月曜日の5時間目6時間目がそうだったと思います。
1、2年のころは演劇クラブに入っていたのですが、3年次はもう少しゆるいクラブに入りたいと思い、美術クラブに入りました。
秋の文化祭に向けて絵や彫刻を作成するのです。
私は油絵を選択しました。
油絵は美術の授業にはなかったことと、下手でもなんとか上手く見えるかと姑息な考えからだったと思います。
絵を画くことは嫌いではありません。
しかし、上手いかどうかは別です。
それ以前に私には途中で飽きてしまうというとんでもない欠点があります。
スケッチも木の葉を最初は丁寧に描いていても、そのうちただの長細い丸になっているような感じ。
色を乗せるときもそうでした。
最終的にはべた塗りです。
どこで飽きたのかはっきりわかるバランスの悪い絵です。
油絵は初挑戦でしたので、下書きを張り切って描いたと思います。
大き目なサイズのキャンバスでした。
題材は外国のお城。
夜明けの空だったかな?夕焼けかな?薄く紫がかった空を背景にした白いお城です。
しかも、手前には湖があり、そこにお城が移りこんでいるというとても幻想的な風景。
先生に教えていただきながら色を乗せた時は、なんだか芸術家になったような気分でした。
一番難しい部分、湖に移ったお城から色を載せました。
それが失敗でした。
そこで私は飽きてしまったのです。
その部分は集中して描いたけれど、後は手抜きもいいとこ…。
仕上がった絵は、写真とはかけ離れた、ヴィランが住んでいるようなおどろおどろしいお城になってしまいました。
半年かけて書いた絵が台無し。
そして文化祭当日、絵が展示されている教室に行ったところ、なんと、私の絵がさかさまに展示されていたのです。
私はその場にいた先生に
「先生、私の絵、さかさま」
と言ったところ、先生は
「この方が見栄えがいい」
と一言。
要するに湖に移ったお城は下側にあるのでそちらを上にした方がまだマシといったところでしょうか。
確かに集中して描いた湖のお城の方が実際のお城に見えなくもなかったです。
あの時画いた絵が私の人生最後の大作でした。
さて、今回ご紹介する小説は原田マハさんの「デトロイト美術館の奇跡」です。
では、あらすじを簡単に
―何でもします。あの絵を《画家の夫人(マダム・セザンヌ)》を守るためなら。
ゴッホにセザンヌ、ルノワール。
綺羅星のようなコレクションを誇ったデトロイト美術館は、2013年、市の財政難から存続の危機にさらされます。
市民の暮らしと前時代の遺物、どちらを選ぶべきなのか?
全米を巻き込んだ論争は、ある一人の老人の切なる思いによって変わっていきます――。
実話をもとに描かれる、ささやかで偉大な奇跡の物語。
作者情報
作者は原田マハさんです。小説家、キュレーター、カルチャー・エッセイストとしてご活躍されています。
実兄は同じく小説家の原田宗典さんです。
馬里邑美術館、伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館に勤務したという経歴の持ち主です。
2002年にフリーのキュレーターとして独立しています。
2003年にカルチャーライターとして執筆活動を開始し、2005年には『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞しました。
キュレーターの経歴とも相まって、美術を題材とした作品が多いです。
映画のよう
物語は2013年、デトロイト財政破綻の影響で所蔵品の売却が検討されたのですが、市民や国内外の支援によって売却されなかったという実際にあった出来事がベースになっています。
120頁4章という短いお話ながらも、まるでハリウッドの大作映画を観た後のような感動と余韻を与えてくれます。
一市民、コレクター、キュレーターと立場は違えど、登場人物のアートへの想いが臨場感を伴いながら伝わってきます。
読みながらGoogleで物語に出てくる作品を検索してしまいました。
中でも惹かれたのはアンリ・マティスの「窓」です。
夢中になって他の絵も探してしまった!
物語の中で、ある意味ヒロイン的な「マダム・セザンヌ」はどことなく作者の原田マハさんに似ているような気がします。
友達に会いに行くように美術館に行き素晴らしい作品を観ることが出来る、こんな美術館が身近にあるデトロイトの市民がうらやましいですね。
感動とマティスとの思わぬ出会いを与えてもらった作品です。
まだ知らないアートに会いに美術館に行きたくなります。
作者である原田マハさんの意図もそこにあるのかなと感じました。
デトロイト美術館の奇跡
著者:原田マハ
出版社:新潮社
発行:2019年12月23日
※画像はAmazonより引用させていただきました