混沌とした今だからこそ観たい!重厚な社会派サスペンス映画「新聞記者」
以前、職業訓練の講師を務めていた時に「朝の3分間スピーチ」という発言する力を鍛える授業を行なっていました。
題材は、新聞やTVで報道されているニュースでした。
スピーチをする訓練生は3人。
ニュースの概要をただまとめるのでは内容が被ってしまいますので、そのニュースに関連することや気になったワードについてなど範囲は広げていました。
ある日のスピーチで(題材は確か新しい法案だったような気がします)ちょっと変わった視点でスピーチをした20代の女性の方がいました。
彼女はその法案についてまず、家で購読している新聞記事を徹底的に読みこんだということでした。
その新聞は一貫して法案には反対という記事を載せていたようです。
彼女はそれに沿って記事を書こうとしていたのですが、
「反対があれば賛成の意見もあるよね」
と、気付き、TVニュース、他社の新聞記事、ネットニュースを調べられる範囲で調べたところ、反対派が多いものの中には賛成や中立的な立場だったりする報道もあったようです。
そして、反対派のメディアの多くは政権にも否定的な報道が多いとのことでした。
彼女は混乱したようですが、
「ニュースなど与えられる情報は多方面から見ることが重要」
という考えに辿りついたそうです。
こちらが伝えたいことを自力で導き出した彼女の探求力は、今回ご紹介する映画「新聞記者」に通じるものがあります。
では、あらすじを簡単に
東都新聞社会部の若手女性記者・吉岡エリカ。彼女は総理大臣官邸の記者会見でただ1人、鋭い質問を繰り返し、官邸への配慮を重要視する記者クラブの中では厄介な存在でした。
そして東都新聞社内でも異端視されていました。
そんな彼女の父親もジャーナリストでしたが、誤報のために自殺してしまいました。
ある日、上司から大学新設計画に関する調査を任されることになった吉岡。
それは、ある極秘情報を記載した匿名のファックスが社会部に届いたためです。調査を進めているうちに、内閣府の神崎という人物にいきあたります。
しかし彼女が取材をしようとしたその矢先、神崎は自ら命を絶ってしまいます。
神崎の死に疑問を抱く吉岡。
一方、調査の過程で、吉岡は内閣情報調査室の若手エリート官僚杉原拓海と出会います。
彼は現政権に都合の悪いニュースをコントロールする立場でした。
亡くなった神崎は彼の元上司でもありました。
彼もまた神崎の死に疑問を持ちます。
お互いの立場の違いを超えて調査を進める吉岡と杉原。
そして、神崎が握っていたある重大な事実が明らかになり…。
作品情報
監督は藤井道人さんです。
伊坂幸太郎原作の「オー!ファーザー」(2014年)で長編映画デビューしました。
「新聞記者」は第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞、第62回ブルーリボン賞作品賞を受賞しています。
主演を務めたのはシム・ウンギョンさんです。
子役から活躍されている韓国の女優さんです。
2014年に主演した韓国映画『怪しい彼女』が観客動員数860万人を超える大ヒット。多数の賞を受賞しています。
そしてもう一人の主役が松坂桃李さんです。以前も書いたと思うのですが、まなざしがなんとも言えない色気を湛えていてよき。
内閣情報調査室
さて、この作品は東京新聞社会部の望月衣塑子記者による同名ノンフィクションを原案にしています。
劇中で松坂桃李さん演じる杉原が勤務している内閣情報調査室。
メディアの情報を政府の都合の良いように操作したりするという深い闇をみせられ、とても怖かったです。
ベースにある事件が実際に日本で問題になった事件であることと、コロナ禍で大臣や官房長官の記者会見をよく目にするようになった今だからこそ、よりリアルに感じました。
監督の藤井道人さんも制作にあたり、リアリティを追求するために念入りな取材を行ったようですが、内閣情報調査室のことは誰に聞いても詳細はわからなかったとのことです。
吉岡を演じたシム・ウンギョンさんの発する日本語はほんの少しだけたどたどしさを感じさせますが、アメリカで育ったという設定と、表情で魅せる抑えた演技で違和感を覚えることなく、静かな熱を感じる見事な記者像を作り上げました。
実際に起きた事件がベースにありますがあくまでも映画の中のこと。
問題提起はされますが、エンターテイメントの枠からは逸脱してはいない重厚な社会派サスペンスです。
内閣情報調査室のホームページです。ご参考までに。
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jyouhoutyousa/yakuwari.html
【新聞記者】
監督:藤井道人
脚本:詩森ろば
高石明彦
藤井道人
原案:望月衣塑子「新聞記者」
河村光庸
出演者:シム・ウンギョン
松坂桃李
本田翼
岡山天音
長
西田尚美
高橋和也
北村有起哉
田中哲司
製作年:2019年
製作国:日本
※画像はAmazonより引用させていただきました