軌跡としての不妊治療-後編

後編では、フランスにおける不妊治療とは一体どんな内容なのか?そして、フランス人特有の不妊治療における価値観についてお話したいと思います。

「暮らしの豊かさ」とはかけ離れた話題になってしまうのですが、「こういう文化もある」といったライトなスタンスで読んでいただけると嬉しいです。

前編はこちら↓



フランスでの不妊治療は全額保険適用

軌跡としての不妊治療

まず、不妊治療の流れとしては日本もフランスもそう大差はありません。
一つだけ違うのは、男性側の検査も女性と同時に強制されることです。

私がフランスで受けた検査はこちら

・子宮頸がん検査
・乳がん検査
・細菌検査
・血液検査
・卵管造影検査
・子宮エコー検査

夫の検査はこちら

・精液検査
・血液検査

なんといっても私が驚いたのは、かかる費用の違いです。
最初に行った産婦人科のクリニックで「保険適用」の申請書類を書くのですが、100%全額補償ということで、その充実したシステムに逆にポカンとしてしまいました。

私たち夫婦は、社会保険以外に民間の共済保険にも入っています。
それでも治療費は社会保険だけで全額賄えました。

病院でのお会計は、全てキャッシュレス。持ち物は予約票と保険証のみで良いことになります。

43歳の誕生日まで保険適用、増える40代の出産

フランスで体外受精による初めての赤ちゃんが誕生したのは、1982年のことです。
それ以来、自然に妊娠できないカップルに対しては、人工授精(6回まで)、体外(顕微授精含む)受精(4回まで)など、不妊治療にかかる費用のほぼ全てが社会保険でカバーされています。

結婚していなくても、2年以上同居しているカップルであれば適用可。
フランスの制度は、他のEU諸国と比べて寛大と言えます。

お隣ドイツでは、女性の社会保険適用の年齢上限は40歳、カバーしてくれるのは半額。
スウェーデンも40歳までが対象で、ある一定額を超えないと保険の対象にはならないのです。

もし治療費が自費、もしくは半額負担だったら、一般的な収入の私たち夫婦は続けられなかったでしょう。

スペインやチェコの私立病院ではさらに高齢の不妊治療が可能で、50歳までと設定している所もあります。
そのため、凍結した卵子を持ち込んで国境を超えるフランス女性も増えているそうです。

誰のための幸福か

医学のチカラによって高齢出産が可能になったとはいえ、倫理的な問題もゼロではありません。

世界的に女性のライフスタイルが多様になったこともあり、高齢で出産する人は増える一方ですよね。

フランス女性のピル服用率は高く、10代の頃から始まります。
そのため、産婦人科との付き合いが日本に比べて長く、密な印象があります。

パートナーを見つけて、仕事が板についてきた30歳以降、妊娠したいと思ったタイミングでピルの服用をストップする。

しばらくして自然妊娠が達成されなければ治療するのが普通、と大概の人が考えているようです。

「どうして妊娠できないの?」という悩みや辛さはあっても、不妊治療を恥じる風潮はありません。

それ自体は悪いことではありませんが、「妊娠をコントロールする」という考え方が根付いているフランス文化に正直ついていけない時もあります。

こういった「超合理的」な文化も相まって、実は日本よりもフランスの方が「妊娠・出産」に対する周囲のプレッシャーが高いのです。

周りの干渉も人一倍。

私が時折り疑問に思うのは、社会が「子供がいて当たり前の価値観」に縛られていないか?
そして不妊治療の目的が、昨今騒がれている「価値観の多様性」とかけ離れた方向に向かっているのではないか?ということです。

少子化をストップさせる目標とはズレてしまうのですが、「産まない・産めない選択」も尊重してほしい、と思うのです。

子供を熱望するカップルには最大限の治療を、そうでない選択をしたカップルにも理解を示す、そんな寛大な社会であってほしい。養子の選択だってあります。
誰にとっても「うしろめたさ」を感じなくて済む、フラットな環境が望ましいですよね。

そんな寛大さを国に求めるのは無理かもしれませんが、せめて自分の周りには良き理解者でいようと思いました。

軌跡としての不妊治療

不妊治療で妊娠を希望している私たち夫婦ですが、授かるかどうかは正直分かりません。

これから、一生分の感情を味わうんじゃないかと思ってます。

例え「奇跡」が起きなかったとしても、この経験を「軌跡」と捉えて、これからの人生のプロローグに添えることができれば、と今は思います。

家族のかたちは人それぞれですし、月並みですが自分の幸せが一番ですよね。

一人でも多くの女性が涙しませんように。
遠くフランスから願っております。

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