映画「あん」河瀨直美監督 2015年5月日本公開

子供のころ、私はあんこを食べられませんでした。
ただ甘いだけでベタっとした舌触りも嫌いでした。
かといって甘いものが嫌いなわけでもなく、父親がたまに買ってくるケーキなどの洋菓子系は大好きでした。
でも、唯一食べられたのは母方の祖母が作ったあんこのぼたもち。
甘さの中にやや強めに塩が効いていてそのバランスが絶妙でした。
自分で再現しようと思ってもなかなかできません。
ちゃんと聞いておけばよかったな。

さて今回ご紹介する映画は2018年に亡くなられた樹木希林さんの最後の主演作「あん」です

ではあらすじを簡単に。

~暴力事件で服役していた過去を持つどら焼き屋「どら春」の雇われ店長
千太郎(永瀬正敏)のもとに、ある日、求人募集の貼り紙をみて訪れてきた老女徳江(樹木希林)。彼女はこの店で働くことを懇願します。時給300円でもいいという徳江を千太郎は素っ気なく追い払います。後日、徳江は手作りの「餡」を持参し再び店を訪れます。徳江の餡を食べた千太郎は徳江を採用することを決めます。徳江の餡はとてもおいしかったのです。徳江が餡を作り始めてどら春はとても繁盛します。しかし、ある晩、店のオーナーが血相を変えて千太郎に言いました。「徳江さんはハンセン病だ。店の評判が落ちる。辞めさせて」~

監督は河瀨直美さん。初の商業作品『萌の朱雀』で第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少の27歳で受賞。
第60回カンヌ国際映画祭にて『殯の森』がグランプリを受賞。
そして第62回カンヌ国際映画祭で、映画祭に貢献した監督に贈られる「金の馬車賞」を、女性、アジア人として初めて受賞。
世界的にも評価の高い監督です。

原作はドリアン助川さんの同名小説です。
徳江のイメージは執筆している時から樹木希林さんだったそうですよ。

映画で扱われているハンセン病は、不治の病、恐ろしい伝染病として、患者は強制的に療養所に送られ隔離されていました。
感染力が極めて弱く特効薬により治療ができる病気と明らかになっても、隔離政策はなんと平成8年まで続いていたのです。
隔離政策が廃止されても家に戻れない元患者は今でもそこで生活せざるを得ません。

浅田美代子さん演じるオーナーにはかなりイラっとさせられます。
しかし、ハンセン病に対する差別はいまだに残っています。
無理解や無知が差別の原因だということを、彼女を通じて私たちに伝えているのかなと思います。

ゆったりと流れる日常の風景、樹木希林さんをはじめ永瀬正敏さん、中学生役の内田伽羅さん(希林さんのお孫さん)の演技が、大げさではなくまるでドキュメンタリーを見ているように自然です。
アドリブも多かったようですよ。

餡の作り方を千太郎に教えながら一緒に作るシーンは、ほのぼのとしていて、とても楽しそうでした。
小豆が餡になってゆく過程をじっくりと丁寧に描いています。
ここ、絶対食べたくなりますよ。
私、コンビニに行ったもの。
祖母の餡を作る姿を思い出して少しほろっとしてしまいました。

自由を奪われ隔離されていた徳江は、それでも花や風など自然を感じ、生き物の声に耳を傾けながら幸せを感じます。
自分の世界の中では自由だったのではないかな?
ホームビデオのように抑えた色彩の映像は、自然の描写がとても美しい。
きっと徳江はこんな風に自然を感じていたんだなと想像させられます。

“生きる意味”を問いかける、そんな作品です。

忙しい毎日を送る私たち、ふと手を止めて窓の外の自然を感じることも、必要なことなのかもしれませんね。
心がほんのり温まる、そんな魅力を持った作品です。

※画像はAmazonより引用しました。

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