誰がための日々

息が詰まるほどの閉塞感 映画「誰がための日々」

職業訓練校で講師として勤めていた時、知人から
「職場の人間関係に悩んでいる友人がいるので話を聞いてやって」
と頼まれ、知り合いになったワダさん(仮)。
彼女は上司と折り合いが悪く、このまま務めていると自分がダメになると訴えます。
話を聞いているうちに、上司も彼女もどっちもどっちだなあ…と思った私ですが、彼女は
「上司が無能」
の一点張り。
彼女は接客販売をしていたのですが、扱っている商品のことを追求していくうちに品質に拘りを持ち始め、そのうちに上司の仕事であるバイヤーとのやり取りにまで口を出すように…。
そりゃ、怒られるわ…。
やんわりと自分のやるべき仕事に集中した方がといいと言おうとしたとき
「あの人は獣がついている」
とつぶやくワダさん…。
「ン?獣?」
「はい、私の使者がそういってました」
「使者?」
「この人ね、視える人なんだ」
同席した知人が言います。
何が見えるのだ…。
「はらさん、息子さんいますよね。○○高校に行きますよ」
その時息子は中学2年生でした。
「何かスポーツしてますよね。バスケかな?いま休んでますね」
合ってるし。
ちょっと怖くなった私は仕事があると席を後にしました。
その後、彼女は3日おき位に電話を寄越し、その都度上司への悪口と私への予言めいた事を2時間ほど話し、辟易した私はとうとう彼女の電話を着信拒否。
その数か月後、彼女を紹介した知人に話を聞くと、
「入院したみたい。精神的にちょっとだって」
「あら…そう」
「ごめんね。しつこくされたでしょう」
「いえいえ」
彼女が視えていたのは幻視だったのでしょうか?
でも、彼女が言ったことほとんど当たってるんですよね…。

妄想や幻聴と医学的に括られる中にもひょっとしたら本物ってこともあるのかな?と思ってしまった。

さて、今回ご紹介する映画は「誰がための日々」です。



では、あらすじを簡単に

かつてはエリートサラリーマンだったトン。
片足が不自由になった母親の介護をするために仕事を辞めました。
婚約をしていた女性とも家の購入と母の介護のことでもめてしまいます。
父親であるホイは長距離トラックの運転手として各地を駆け巡り、家には寄り付かず…。
優秀だった弟もアメリカに行ったまま帰ってはきません。
ただ一人必死になって母と向き合うトンでしたが、プライドの高い母の理不尽でわがままな振る舞いが大きなストレスとなっていきます。
そして極限にいるストレスが、トンの精神を少しずつ蝕んでいきます。
ある日、事件は起きます。いつものように母の下の世話をしていた時、言い争いをした結果事故が起こり、母が亡くなってしまうのです
裁判では無実の判決を受けますが、双極性障害と診断され、そのまま強制入院となりました。
それから1年、トンの病状も回復し退院が許されます。
久しぶりに再会した父ホイが一緒に住むことを提案します。
そして狭くて壁の薄いアパートの一室で二人の共同生活が始まります。

作品情報

監督はウォン・ジョン(黄進)です。2016年に公開された本作が長編デビュー作となり、各国で高い評価を受けます。
今ではアジアで最も次回作が注目される監督の一人として注目されています。

主演のトンを演じたのはショーン・ユーです。モデルとしてデビューした後、台湾のTVシリーズ「あすなろ白書」で人気を博します。
「インファナル・アフェア」シリーズでは、トニー・レオンの若き日を演じ、強烈な印象を残しました。

父親のホイ役を務めたのはエリック・ツァンです。長いキャリアの中で数多くのヒット作を持つ俳優であり、プロデューサー、監督など様々な顔を持つ、香港映画界の名優の一人です。

暗くて重い

かつてはエリートサラリーマンとして婚約者と家を買い、明るい未来が待っているはずだったトン。

それが母親の介護のため、すべてを失ってしまいます。

この母親がすべての元凶といっても過言ではありません。
父親のホンが帰って来ないのもホンを毛嫌いした母親によるものだとわかります。
一生懸命母親と向き合おうとしたトンはいつしか精神を患ってしまいます。
いわゆる介護うつ状態ですね。
大きなストレスに晒されると誰しもが精神的に病んでしまう可能性はあります。
父親のホンや弟は母親というストレスの下から離れたんですね。

双極性障害から必死に抜けだそうとするトンに、周囲の偏見や父親の怪我、友人の死など次々と問題が降りかかります。
挙句の果てに元婚約者からの糾弾によって彼はまた果てしない闇に飲み込まれそうになります。
そんな中、薄い壁一枚を隔てた隣人の少年が、ただひとり、他の誰とも異なり普通にトンと接してくれるのが唯一の救いでした。
とても重い題材の作品ですが、香港の現実社会を切り取ったと言われています。
介護問題、精神病問題、格差問題と観光しているだけではわからない、現状を知る映画として受け止めたいと思いました。

【誰がための日々】
監督:ウォン・ジョン
出演者:ショーン・ユー
エリック・ツァン
エレイン・ジン
シャーメイン・フォン
アイバン・チャン
シュイ・ジエ
ブライアント・マック
ピーター・チャン
ン・シウヒン
製作年:2016年
製作国:香港

※画像はAmazonより引用させていただきました

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