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レオナルド・ダ・ヴィンチ・ザ・スーパースター!死後500年たっても消えないそのブランド力

イタリアにおける3大スターといえば、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロであることは衆目の一致するところ。
この3人の共通点は春生まれである点です。ボッティチェッリが描いた『プリマヴェーラ(春)』を思い出すまでもなく、ことのほか美しいイタリアの春のその豊饒さと3人の天才の誕生がかぶるというのがまた感情をかきたててくれます。

1515年ごろ、レオナルドが最晩年に残した自画像。(トリノ王立図書館)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Leonardo_self.jpg

2019年はレオナルドの500年忌、2020年はラファエロの500年忌とイベントが続きましたが、この3人の作品をイタリア国内で移動させて展覧会を開けば、それだけでも大金が動くといわれています。つまり、500年後のイタリア人をも食べさせてくれるブランド力が、3人の天才にはあるのです。

2019年、ドイツのビーレフェルト大学の研究で「モナリザの視線」は正面ではなく右15.4度を向いていることが報告されました。(1503年頃 パリ・ルーヴル美術館)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mona_Lisa_detail_eyes.jpg

その中でも、レオナルド・ダ・ヴィンチは別格とされています。
ここ数年、イタリアの新聞をにぎわせたレオナルドに関するニュースだけでもこれだけあります。

・アメリカのプライベートコレクションからレオナルドの髪の毛が見つかった!
・レオナルドは両利きだった!(レオナルドは左利きであったというのが通説)
・エリザベス女王が所有するレオナルドのスケッチから彼の指紋が見つかった!
・レオナルド作『モナリザ』の視線は正面ではなくわずかに右向きであった!
・レオナルドの母の本名が判明した!

などなど、いずれもごく些細なことがレオナルド関連というだけで大見出しとなるのです。



レオナルド・ダ・ヴィンチは、トスカーナ州のヴィンチ村に生まれたイタリア人でした。
彼はパトロン運が悪く、最終的にフランスに移住しフランス王の庇護のもとアンボワーズで死去します。そのため、『モナリザ』をはじめとする彼の遺品の多くがフランスに残ってしまい、イタリア人にとってはまさに千載の遺恨といったところでしょうか。

レオナルド関連の書籍や記事は、2000年の時点で10万を超えていたと伝えられています。
21世紀に入ってからは出版数や記事数はさらに加速し、全世界では20万件を超えているという報告もあるそうです。

イタリアに残るレオナルドの作品としては最も有名な『最後の晩餐』。(1495年頃 ミラノ・サンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ教会)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Leonardo_da_Vinci_-_The_Last_Supper_high_res.jpg

イタリアの大手食品企業イータリーがレオナルド作『最後の晩餐』の修復事業に投資したり、レオナルドがミラノの公爵から報酬として受け取ったぶどう畑が再生されてそのワインが販売されたり、とにかくレオナルド・ダ・ヴィンチという名を冠すれば売れる、というのが世間の常識となっているのです。

1487年ごろに描かれた『ウィトルウィウス的人体図』。Tシャツのデザインから書籍の表紙まであらゆるところに登場するレオナルドのスケッチ。(1490年頃 フィレンツェ・アカデミア美術館)
画像引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Da_Vinci_Vitruve_Luc_Viatour.jpg

こうしたレオナルド伝説はいつ誕生したのでしょうか。
実は、レオナルドを自らの喧伝として活用したのはファシズムのムッソリーニ政権であるといわれています。
功罪さまざまといわれるムッソリーニですが、識字率が低かった当時のイタリア人に誇りを持たせるためにレオナルドを活用したのでした。

「他国がトルストイやセルバンテス、シェークスピアを生む以前に、イタリアにはダンテ・アリギエーリが存在していた。
ミケランジェロの彫刻、ラファエロの絵画、ガリレオの天文学、モルガーニの医学、そしてこれらすべての分野の最高峰にそびえたつ存在として、われわれはレオナルド・ダ・ヴィンチを有しているのだ」

という、大向こうをうならせるような演説をしてイタリア人を奮い立たせていたわけです。

実際、歴史に残るレオナルド展はファシズム政権下の1939年に開催されています。
これ以後、レオナルド・ダ・ヴィンチは「ルネサンスの天才」「イタリアの天才」としてのブランド力を有するようになっていくのです。

ミケランジェロやラファエロは、いまでこそ「芸術家」として知られていますが、当時はまだ「職人」としてパトロンから依頼された仕事を全うすることを最優先にしていました。

ところがレオナルドは、この「職人」というカテゴリーにおさまりきらない人でした。
彼はしばしばパトロンからの仕事を放擲し、また自発的に描き始めた作品も未完のまま放置し、あらゆる思索にふけっていたことは残された6000枚のスケッチやメモが物語っています。エリザベス女王もこのスケッチの一部を所有していることで知られていますが、これらのスケッチも世界各地の展覧会で引っ張りだこなのです。

ミケランジェロやラファエロと異なる点は現代も同じで、彼らに関する書籍は美術コーナーに集中しているというのに、レオナルドに関する書籍は美術コーナーにとどまらずサイエンス、哲学、医学、演劇、数学、工学、はては料理コーナーにまで並ぶありさま。
とにかく、カテゴリーに分けるにはあまりにもすべてを超越した存在であるのがレオナルド・ダ・ヴィンチなのです。

「万能の天才」といわれるレオナルド・ダ・ヴィンチの面目躍如といった感じですが、彼はこうしたさまざまなプロジェクトを完遂することができなかったという不運の持ち主でもありました。
ここからまたさまざまなミステリーが生まれ、数年前にブームとなった「ダ・ヴィンチ・コード」のように文学の世界にまで影響を与えています。
イタリアをはじめとする西洋では、レオナルドを主役とした映画やドラマもひっきりなしに誕生して、まさに500年後の人々まで食べさせることができる偉人といったところ。

修復のためにローマに送られてきたときの『自画像』。実際にはかびが目立ちます。

私事で恐縮ですが、私の夫は物理学者で2年ほど前にイタリアのトリノに残るレオナルドの自画像修復に参加したことがあります。
まさに国宝級のこの自画像、実際の修復に携わる化学、物理の専門家にとどまらず、歴史家、古文書学者などなどあらゆる分野のプロが参加して修復について喧々諤々の意見が交わされました。

サイエンスに従事する人々は、レオナルドの自画像を調査し未来に残す修復をするべきだと主張し、歴史家や古文書学者はこうした作品が自然に朽ちていくことも歴史の一部だと主張し、結局小田原評定に終わってしまったのだそうです。

レオナルドの作品は脆弱なことでも有名で、この方面でもまた現代人をやきもきさせる存在。
レオナルドの情報に一喜一憂している我々こそが、彼の存在に右往左往させられているというのが実態かもしれませんね。

参照元
https://www.ilgiornale.it/news/cultura/trovata-ciocca-capelli-leonardo-vinci-1686094.html
https://it.businessinsider.com/leonardo-da-vinci-era-un-mancino-naturale-costretto-da-bambino-a-usare-la-destra-e-si-invento-la-scrittura-speculare/
https://twitter.com/RCT/status/1089865189531488256?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1089865189531488256%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=http%3A%2F%2Fblog.livedoor.jp%2Fcucciola1007%2Farchives%2Fcat_118185.html
https://www.huffingtonpost.it/2019/01/09/lo-sguardo-magico-di-monna-lisa-e-un-fake-la-scienza-smentisce-il-mito_a_23638025/
https://www.agi.it/cultura/madre_leonardo_da_vinci_caterina_chi_era-1841227/news/2017-06-05/
https://it.businessinsider.com/il-vero-leonardo-da-vinci-al-di-la-del-brand-inventato-dal-fascismo-genio-ma-anche-un-copione/
https://www.mussolinibenito.net/discorso-di-trieste/

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